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この世界の片隅に (2016) 映画感想

映画 アニメ

◇監督・脚本:片淵須直
◇原作:こうの史代
◇出演:のん(能年玲奈)/細谷佳正/稲葉菜月/小野大輔/潘めぐみ/岩井七世
◇音楽:コトリンゴ


この世界の片隅に」をみた。時間が経ってもじわじわくるものがあって、その理由もその感情の名前もあまりよくわからない。この映画の感想を書けば書くほど陳腐なものになってしまいそうで、なんて言葉を紡げばいいのか迷ってしまう。テレビで宣伝を制限させられている(らしい)のも人気に拍車をかけているように思う。Twitterでは、みんなに見てもらいたい超絶おススメの一作!みたいなのが流れてきたかと思えば、一部の人にはトラウマになりかねないので手放しに勧めることはしない、という意見もあってデリケートな映画なんだろうと思ってたけど、観客も映画評論家からも軒並み高評価なようだった。それでも僕が観にいく決め手になったのは監督のあるツイートで。


"『ローマの休日』がワイラーの映画だと思う人は世の中にどれくらいいるだろうか。
でも、『ローマの休日』はオードリー・ヘプバーンの映画だ、みんな知っている。
映画ってそういうものなんだ。
この世界の片隅に』は のん の映画であってよい。
そうあるときこの映画は幸せを手に入れたことになる。"



このツイートに心を打たれた。監督の映画に対する想いが伝わってきたし、監督にここまで言わせる能年玲奈の声って?!となった。それにしても、「のん」と「能年玲奈」、どっちで表記すればいいか迷ってしまうけど、事務所騒動で名前を奪われてしまったというのが本当なら、いつか取り戻してほしい。


のんの声は凄く素敵だった。飾っていなくて、素朴で、あまちゃんのころの能年玲奈が戻ってきたような。「のん」の映画というのもすごくしっくりくるものだった。でも実際にこの映画の話となると、のんだけでなく監督や原作者の名前が必ず上がるので、やっぱり「のん」だけの映画ではないんだろうなと思う。


僕は戦後に生まれて、「戦争」というものはいつも正常な判断を奪ってしまう、という認識だった。でもこの映画の中の人々は努めて慎ましく、前向きに生活している。それだけのことが、戦争を知らない僕の目を通すだけでなんだかとても温かいものに見えてきた。実際、すずやすずの周りの人の生活はとても丁寧で温かいものではあったけれど、そういう切り取り方をしているだけで、あくまでも普通に暮らしていることで「丁寧に生活している」という感想を抱くのは戦争を知らない僕のエゴみないなのも含まれているんじゃないかと思う。だから、その「普通」を奪ってしまいかねない戦争に、僕は少なからずショックを受けたしすずの性格に救われたような気がした。


この映画をみて、もう少し丁寧に生きていこうかな、とうっすらと思うようになったけれど、丁寧に生活するって何なんだろうという疑問にぶつかった。目の前にあることを気を張らずに乗り越えていくことだとか、どんな雑草にも名前がついていることを忘れない、だとか、そういう感じかなと思う。難しい。正直のところ、事前に原作も読んでいなければ、何なら心温まる映画だと思ってみたので、一回観ただけでは見落としているところは絶対にあるし、理解の仕方がずれてるんじゃないかと思うところもある。もう一度観たいけど、時間を置いて観たい。できれば3年後くらいに。


幼い自分と年老いた自分は同じ自分ではあるけれど、果たして本当に同一の存在なのだろうか、とふと考えたことがある。地を這う幼虫が空を飛ぶ蝶になるように、さなぎを経ないだけで違う存在になっているのではないだろうか、と。でもそれは幻想かもしれない。時代にも同じことが言えて、戦前と戦後という大きいくくりがあったとしても、時代は分断されたわけではなく一つの流れになっている。だから戦争を経た時代を僕たちが生きている限り、戦争を風化も美化もしてはいけないと思う。


おとなの事情でこの映画が金曜ロードショーで流れることはなさそうだから、何かの間違いでまだこの映画をみていないのにこのブログを読んでいる人がいたら、ぜひ観てほしいです。監督の言葉を借りるなら、「この映画が一人でも多くの人にみられるとき、この映画は幸せを手に入れたことになる。」というのが僕のささやかな願いです。





◇追記

名もない男女が世界の片隅ではじめる物語が、ときにはどんなすばらしいメロドラマをも凌ぐことだってある。だが、名もないふたりの恋が世界中に声をとどろかすときには、きっとなにかが復讐しにやってくる。歴史というのは、とても嫉妬深いものだから。(寺山修司 『思い出さないで』より)