Subscribed unsubscribe Subscribe Subscribe

『リップヴァンウィンクルの花嫁 (2016)』で幸せの夢を見る

映画

f:id:allisfulloflove:20161025233339j:plain

(映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』公式HPより)http://rvw-bride.com/

 

2016年は映画の年と言われているが、2016年3月に公開された『リップヴァンウィンクルの花嫁』も含まれて映画の年であると言えるだろう。今年唯一複数回観に行った映画でもあり、自分の人生に少なからず影響を与えた映画でもある。そんな特別なものだからこそ、偉そうにブログを書いているにも関わらず、長い間この映画の感想や素晴らしさを言葉に出来ずにいた。なぜなら観た後の感情は見事に「無」そのもので、それ以外何の感情も湧かず、一種の不思議体験をしたのである。余計なことを考えると『リップヴァンウィンクルの花嫁』の記憶をぽろぽろとこぼしてしまいそうになった帰りの電車の中。もう一度観にいかなくては、と自然と再び劇場に足を運んだ。

 

この映画に少し、依存しすぎてしまった。映画を観てからもう半年以上過ぎているというのに、この映画に囚われているような気がしてならない。

 

円盤化してから家のテレビで観ていると、言いようのない違和感が襲ってきた。映画館で映画を観る醍醐味と言えば大画面と大迫力の音響なのに、この映画にいたっては映画館は静寂を鑑賞するためのただの箱のようだった。だから、家のテレビではあの静寂を再現できず、まるで違う映画を観ているようだった。

 

 

 

 

この映画の主人公である皆川七海(黒木華)はどこか自分と重なるように感じた。

もしくは演劇の世界に行かなかった黒木華

それくらい主人公に主体性がなく、周りに翻弄される人生を歩んでいた。

 

この映画はうそで塗り固められている。ねこかんむりとは一体何なのか、はっきりとした答えは出ていない。きっと正解も不正解も存在しない。でもきっと、猫かぶる、とかうそにちなんだことなんだろうと漠然と思う。実際には宮沢賢治の『水仙月の四日』いうお話をモチーフにしてあるらしい。それでも明確な定義はないのではないかと思う。それとも、邪推すればグッズ化でボロ儲けするためにあんなものを作ったのしれない、とも考えられる。でも、ねこかんむりはねこかんむりであり、その他何物でもない。

 

うそと偽りの物語、とも言えるこの映画、とにかく嘘でできている。突き詰めて言えば、綾野剛の役柄はうそそのもののようだし、俳優や女優という職業さえ嘘の化身である。"カムパネヌラ"も、"ランバラル"も、"リップヴァンウィンクル"も、フィクションの中のフィクションの名前である。そしてこのお話が物語である以上、全ては嘘だ。

 

 

 

"この世界はさ、本当は幸せだらけなんだよ"

この言葉に初めて出会ったのは映画ではなく小説だった。この一文は原作小説の帯にも書いてあり、『リップヴァンウィンクルの花嫁』を思い出す際にはウエディングドレスで車に乗る黒木華の横顔と、ねこかんむりと、この一文が頭によぎる。

 

f:id:allisfulloflove:20161025230915j:plain

 

しかしこの一文を初めて読んだときに、あまりすっと心に入ってくることはなかった。それは例え話で「レジの店員が買ったものを袋に入れてくれる瞬間にそういう類の幸せを感じる」、というようなことを言っていて、どちらかというと店員側の目線で"そんなの幸せでもなんでもない"、と思ってしまったからである。しかしこの場で語られた幸せとはそういうことでもなんでもなく、ただ見方を変えるだけでこの世は幸せに溢れているという、ごく単純なことなのだ。だがそういう風に考えるのは、簡単そうに見えてもなかなか難しい。この世は幸せも不幸せも表裏一体となっていると思うからだ。だからこそ、幸せだけを取り込むことは難しく、それが出来る人は素直に幸せを感じられるのだと思う。

 

小説を読んだときも、映画を観たときも、そんな天邪鬼のようなことを考えてしまった。でももっと素直に受け止めるべきだったんだと今は思う。

 

先日スーパーで買い物をした際に、買ったものがカバンに入る量だったので有料の袋を断ったことがあった。その時にレジをしてくれたおばさんが、買ったものがカバンの中で散らばるとよくないから、と透明の小さい袋に入れてくれたことがあった。その時に、ああ、嬉しいな、と感激した。すごく小さい幸せだけれど、胸が温かくなった瞬間だった。こういうことなんだろうな、と思ったりもした。  

 

 

 

きっと、自分の知らない世界では幸せが溢れていて、知らず知らずのうちに目の前を通り過ぎているだけなのかもしれない。朝、雨が降っていると気が滅入るけど、夜、雨の音を聴きながら眠りにつくのは嫌いじゃない。近所の野良猫が威嚇してくる日もあれば、触らせてくれる日もある。嘘だらけの世界でも、幸せは裏切らない。自分がそう思う限り。

 

 

f:id:allisfulloflove:20161025231037j:plain

 

 監督:岩井俊二

 撮影:神戸千木

 出演:黒木華/綾野剛/Cocco

 製作:宮川朋之/水野昌/紀伊宗之

 音楽:桑原まこ

 

 

映画公開からしばらく経って、この映画に登場する架空のSNSが実際にリリースされた。そのSNSで仲良くなった人がいて、主に映画の話をする程度だったのが、思いのほか交流が続いた。そこで何気なく話した映画のことを覚えていてくれた人が、わざわざポスターを送ってくれると言った。ネットで知り合った人と住所を教え合うというのはなんとも変な感覚だったのだが、その人はただの善意でポスターを送ってくれると言った。私はそのポスターよりも、その人が善意で送ってくれるということが嬉しくて、本名と住所を教えた。その人は信用できる人だったし、オフ会などで面が割れていて大丈夫だろうという安心感もあった。しかし個人情報の取引は向こうにとってもリスクがあるはずなのに、何も知らない私のことを信用してくれたのは嬉しかった。届くまでは多少の不安はあったけれど、現在そのポスターが手元にあることによって、私がそのSNSをやったということと、この映画での出会いが形に残ったのだった。だから、そのポスターは幸せの象徴みたいなものだと勝手に思っている。