Subscribed unsubscribe Subscribe Subscribe

鑑定士と顔のない依頼人 (2013) 映画感想

観るたびに印象の変わる映画

 

鑑定士と顔のない依頼人 スペシャル・プライス [DVD]

 

監督:ジュゼッペ・トルナトーレニュー・シネマ・パラダイス

製作国:イタリア

出演者:ジェフリー・ラッシュジム・スタージェス、シルヴィア・フォークス

 

鑑定士と顔のない依頼人」は数回観たのだけど、何回みても新たな発見があり解釈もその都度変わる面白い映画だ。観た後は一緒に観た人と語りたくなり、また色んな人の感想をきいてみたくなる。ただこの映画の正しい解釈というものは存在しないように思う。監督があえてそういう風にしているので、観た人の解釈が正しいようになっているのだと思う。なので解釈は観た人の数だけある。以下はネタバレを含みます。

 

  • ハッピーエンドかバッドエンドか?

初めて観たときは完全なバッドエンドだと思った。もう救いようのない、病院で廃人になってしまった何も残らないバッドエンドだと。ただ最後の時系列があやふやだったのであまりしっくりはこなかった。数回観てからその時系列が誤りで、廃人になってから手紙を受け取りプラハのNight&Dayでクレアを待ち続けるという終わり方が正しいと思ったのでバッドエンドという見方だけではないように感じた。監督はハッピーエンドのつもりで作ったらしい。第三者からみてバッドエンドでも、本人は幸せを感じていることもある。「ダンサー・イン・ザ・ダーク」なんかはそういうエンドだと思っているのだが、この映画もきっとそうだ。とにかくこのあやふやな時系列はミスリードを誘っているように思えるので完全な解釈はなく、観た人の思ったままの解釈が正しいように出来ている。見ようによってはハッピーエンドにもバッドエンドにもなる。

  • どこからどこまで騙されていたのか?

ほぼ最初から騙されていた。主犯はビリー。絵を侮辱されたこと等積もり積もったもの。

  • だれが騙していたか?

ヴァ―ジル以外の登場人物ほとんど。秘書は加担していないという見方をした(というかそうであってほしい。)ただ最後の手紙の内容をぼかしていたのでどっちとも取れる。依頼人の電話を取り持ったりしていたので怪しいことは怪しい。

  • オートマタ(機械人形)の正体

ヴァ―ジルはオートマタの作者の論文を書いていたので部品は興味をそそる。そしてその部品を餌にクレアの家に通わせる目的があった。「贋作の中に本物がある」ということを言わせるため。そしてこの映画の中では本物のクレア同様、常に正しいことを言っている存在。なんだかこの映画の中では異質なものに感じた。

  • 筋書きは本当にこのようなものだったのか?

ヴァ―ジルが襲われたとき、クレアは外に出るのを躊躇っていた。あれは演技をしているのではなく、本当に知らなかったのではないか。ただ、彼女は物書きである。この計画のシナリオを書いたいた張本人の可能性がある。電話でも「ハッピーエンドに書き換える予定」と言っていたように、何かしらの計画の変更があったように思える。

  • クレアとヴァ―ジルの愛は本物か

クレアの「いかなることが起きてもあなたを愛してる」というセリフは贋作の中の本物という解釈をして、本当にヴァ―ジルのことを愛してしまったと思っていたのだがその解釈は意見が分かれるみたいだ。そうだとしたらヴァ―ジルが救われるいいエンドだしそう思いたい気持ちがある。だがあくまでクレアは騙すグループの一員だった。

  • ヴァ―ジルは変わったか

ヴァ―ジルは元々2次元嫁のいる高尚なオタクみたいだったが、クレアと出会ってから執着が絵から生身の人間になった。相手のことを考えたり、髪を自然のままにしたり手袋を着けなくなったのは人間としてのふるまいが変わったはず。自分の世界に他人が入ってきて変わった。冒頭の誕生日にレストランで食事をしていたシーンと最後のNight&Dayで食事を待つシーンは構図的に同じ。だが人を愛するようになったという点では中身も変わっている。あの歯車と時計のレストランは印象的で、同時に彼の時間も止まった。クレアを待つのは彼にとって永遠。

いかなる贋作の中にも本物が潜む何度も繰り返されるこのセリフの真意とは?ヴァ―ジルの取り巻く環境すべてが嘘(贋作)で愛こそが本物だということ?

  • あの部屋からの解放

ヴァ―ジルとクレアは同じような人間だった。ヴァ―ジルはクレアに恋をしていたため懸命に部屋から連れ出そうとしていたのだが、結果的に部屋から出たのはヴァ―ジル自身だった。あの絵に囲まれた部屋からの解放。そこを良しとするのならハッピーエンドにも思える。

  • 本当の顔のない依頼人とは?

顔のないと言っておきながら早々に部屋から出て姿を見せるクレア。だがこの映画の本当の顔のない依頼人はビリーなのではないか。最期まで本当の顔を見せなかったビリー。そしてロバートやクレアを雇っていた(依頼していた)のはビリーである。
原題はThe Best Offerだが私はこの野暮ったい邦題も好きだ。